コラム

観光は平和へのパスポート

 1966年、国連総会に於いて採択されたスローガンである。

「世界各国の人々の相互理解を推進し,異なる文明の豊かな遺産に対する知識を豊富にし、異なる文明の固有の価値をより正しく感得させることによって世界の平和を達成する。」

 私がこのスローガンを初めて知ったのは、1997年にスイスで開催された国連主催の国際観光フォーラムへ参加した時である。以来、国内外で行われる観光関連のセミナーや講演会等に参加した際には、自ら積極的にこのスローガンをアピールしてきた。 

しかし、ロシアとウクライナの戦争は、この素晴らしいスローガンを一瞬にして吹き飛ばしてしまった。戦争がはじまる以前は、両国の多くの国民が観光や経済の交流などで自由に往来していたにも関わらず、ロシアによるウクライナへの侵攻は、世界で禁止されているクラスター爆弾(一つの爆弾の中に何百個もの子爆弾が仕組まれている)まで使用、幼い子供や女性、高齢者たちの生命をいとも 簡単に奪っている。

 そんな最中-78日、今度はこの日本で元内閣総理大臣が選挙演説中に銃撃され死亡というショッキングなニュースが世界中を駆け巡ったのである。その夜、以前、ヨーロッパ大手金融機関の日本代表を長く務め、日本が大好きなスイス人の友人から連絡が有り、「銃禁止の平和な日本で、元総理大臣が、しかも手製の銃で暗殺されるとは、一体どうなっているのか?」との問いに、私は一瞬言葉が詰まってしまった。


昨今、世界の政治は、「平和」とは程遠い方向へ向かっているように思うのは、果たして私だけだろうか・・・

 この上は、一刻も早い「観光は平和へのパスポート」の原点に立ち返ることを切に願うばかりである。

新たな観光立国に向けて

新型コロナウィルスやロシアやウクライナの長期化する戦況は、世界の観光産業の回復にも暗い影を落としつつある。

 観光産業は、21世紀の経済を牽引する基幹産業であり、国内の雇用を新しく創出する。特に今後は増大するアジアの富裕層を念頭に置きつつ、的確なマーケティング戦略の実施や官民一体となった観光プロモーションの活動が不可欠である。

秋田県・田沢湖
秋田県・田沢湖

そもそも、観光は、個人と個人、この小さな繋がりからはじまり、他の国や地方を訪ね、人々が交流し、風景・史跡・風物などを体験することが原点である。また、新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、観光需要は大きく落ち込み、全国の観光産業が極めて厳しい状況下にある。地方経済がコロナ禍から力強く立ち直り、成長と分配の好循環を実現するためには、地方創生の牽引役となる新たな観光立国の構築が重要である。

 観光立国のすそ野は広く、今や旅行業の世界経済に及ぼす影響はますます大きくなってきた。一国の経済の源となっているケースも少なくなく、観光産業は、「不要不急」どころか、基幹産業の性格すら見せつつあるが、残念ながら日本人の多くはまだその事実に気づいていないようだ。


  世界的に観光立国として成功しているヨーロッパ諸国では、自然と調和した自らのライフスタイルの価値を再発見し、サービスの質を高めたことで、多くのリピーターを惹きつけている。

 一方、日本は地震や台風などの災害が多いことも、観光立国として成功するためには乗り越えなければならない高い壁があることを忘れてはならない。

                                                         木村慶一